2014年11月6日 秋元琢磨氏 (終了)

日時: 2014年11月6日(木)16:30〜18:00 
場所: 首都大学東京 8号館301号室 
講師: 秋元琢磨氏(慶應義塾大学
題目: 脂質2重膜における脂質分子および膜近傍の水分子の異常ダイナミクス

要旨: 観測量が「時間平均」=「空間平均」となる性質(エルゴード性)は、力学的体系における平衡状態を保証する概念としてボルツマンにより提唱されたが、実は、この性質は、確率過程や実験データを解析する上で重要な役割を果たしている。例えば、確率過程における大数の法則はまさにエルゴード性が成立することを意味している。一方、実験データを解析する上でエルゴード性が成立している保証はない。しかし、実験では、このエルゴード性は成立するとして解析がなされていることが多い。本講演では、エルゴード性の成立を判定する指標として時間平均量の揺らぎの観測時間依存性の解析を提案し、そこから得られる新たな物理的性質を明らかにする。
具体的には、脂質2重膜を構成する脂質分子や膜近傍の水分子の拡散性を分子動力学シミュレーションを用いて解析する[1,2]。1分子の重心の軌跡を用いることにより、時間平均で定義された平均2乗変位の揺らぎを解析し、以下のことがわかった。1) 脂質分子は過渡的に遅い拡散を示す、2) 膜近傍の水は遅い拡散を示す、3)脂質分子の時間平均量はエルゴード的であるが、その緩和は遅い、4)膜近傍の水分子はエイジング(統計量が観測時間に依存すること)を示すことがわかった。3の結果より、脂質分子のダイナミクス過冷却液体のように周りの分子に閉じ込められ、重心が大きく動くまでの時間分布がベキ分布になっていることが示唆され、実際に、そのようなダイナミクスがあることを確認した。最後に、時間平均量の揺らぎの解析からわかる系の物理的性質について議論する。

[1] T. Akimoto, E. Yamamoto, K. Yasuoka, Y. Hirano and M. Yasui, Phys. Rev. Lett. 107, 178103 (2011).
[2] E. Yamamoto, T. Akimoto, M. Yasui, and K. Yasuoka, Sci. Rep. 4, 4720 (2014).