2018年6月26日 小谷野由紀氏

日時:2018年6月26日(火) 14:30〜16:00
場所:首都大学東京 8号館304号室
講師:小谷野由紀氏 (千葉大学)
題目:系の対称性に依存した自己駆動運動

要旨:自由エネルギーから運動エネルギーを生み出す構造を持ち、摩擦などによってエネルギーを散逸しながら自発的に動き回る系は、自己駆動系またはアクティブマターと呼ばれる。生物は自己駆動系の典型例であるが、複雑な運動メカニズムを持つので、生物のような運動を簡易な物理化学系で模倣した実験系も広く研究されている。水面に浮かべた樟脳粒はその一例であり、樟脳粒は水面に界面活性剤である樟脳分子を拡散し、表面張力勾配に駆動されて動くことが知られている。
樟脳分子の濃度場は領域の境界からも影響を受けるため、樟脳粒の運動は水面の形状に依存する。例えば1次元の水面に樟脳粒を浮かべると、水路長に応じて水路の中心に静止した状態や水路の中心位置まわりの往復運動が観察された。樟脳粒の運動に関する数理モデルを少数自由度の力学系に縮約することで静止状態と振動運動する状態の分岐構造を調べた。その結果、反転対称性のある1次元有限長さの水路において、対称性の高い状態である水路の中心に静止した状態が不安定化し、自発的な対称性の破れによって対称性の低い状態である往復運動が現れることが明らかとなった。以上で述べた自ら対称性の破って現れる樟脳粒の運動は、水路が2次元円形領域の場合、より非自明な問題となる。2次元軸対称な系では、樟脳粒が系の中心位置に静止する状態が存在するが、それが不安定化したときに表れる運動は振動運動や回転運動などの候補があり、どのような運動を示すのか自明でない。そこで1次元有限系と同様の解析方法によって安定な運動を分岐論の観点から調べた。