集中講義@千葉大学 2018年2月20日〜22日 好村滋行

千葉大学 集中講義「非平衡系の統計物理学」
講師:好村滋行(首都大学東京
題目:バイオ・ソフトマター系のマイクロレオロジー
日程:2018年2月20日(火)〜22日(木) 10:00〜
   (談話会は22日16:00〜)
場所:理学部1号館2階121号室

概要:
マイクロレオロジーとは、コロイド粒子などの微粒子のブラウン運動や、
その外力に対する応答を測定することによって、極めて微小量の物質の
粘弾性的性質を調べる新しい実験手法である。この方法は物質としての
ソフトマターレオロジーを調べるために広く用いられているだけでは
なく、近年では細胞一個の弾性率の周波数依存性を測定するなど、生体
系への適用も広がりつつある。一方、非平衡ソフトマター系やバイオ系
にも適用可能なマイクロレオロジーの基本原理を確立するためには、
本質的に非平衡系のゆらぎと構造の複雑な関連性を理解する必要がある。
集中講義では、熱平衡系のマイクロレオロジーの基礎理論から出発して、
実験における具体的な手法や様々な工夫について解説する。さらに、
熱平衡系の理論が細胞などの非平衡系でどのように破れるかを測定する
ことによって、生物の非平衡性を定量的に特徴づけるいくつかの試みに
ついて紹介する。最後に、現在のマイクロレオロジーの限界や、いくつ
かの新しいマイクロレオロジーの可能性についても言及する。

(1)連続媒質中のブラウン運動
・一般化されたランジュバン方程式(GLE)
・時間相関関数と応答関数
・揺動散逸定理
・連続体の運動方程式と構成方程式
・線形粘弾性の対応原理
・粘弾性による異常拡散

(2)熱平衡系のマイクロレオロジー
・パッシブ・マイクロレオロジー
・一般化されたストークス・アインシュタイン関係式(GSER)
・1点マイクロレオロジーと2点マイクロレオロジー
・アクティブ・マイクロレオロジー
・一般化されたストークス関係式(GSR
・ゲルの二流体モデルとマイクロレオロジー

(3)非平衡系のマイクロレオロジー
・揺動散逸定理の破れ
非平衡ゲルのマイクロレオロジー
バクテリア・サスペンションのマイクロレオロジー
・正常細胞とがん細胞のマイクロレオロジー
赤血球のマイクロレオロジー

(4)新しいマイクロレオロジー
・構造流体(不均一系)のマイクロレオロジー
非線形アクティブ・マイクロレオロジー
・生体膜マイクロレオロジー
・スイマーマイクロレオロジー

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談話会

題目: スイマー・マイクロレオロジー

要旨:遊泳するマイクロマシン(スイマー)の研究は、バクテリア
精子などの微生物の流体内運動との関連で注目を集めている。我々は、
ソフトマターのようなねばねばとした粘弾性体中を遊泳するマイクロ
マシンの動作機構について理論的に考察した。具体的には、アクティブ・
マイクロレオロジーで使われている基本式を三つ玉スイマーに適用する
ことで、スイマーの遊泳速度とソフトマターの複素粘性率を結びつける
関係式を導出した。この関係式によると、スイマーが粘弾性体中を遊泳
する場合、必ずしも「ホタテ貝の定理」が成り立たないことが示された。
すなわち、三つ玉スイマーがソフトマター中を遊泳するには二通りの
可能性があり、一方は形状変形の時間反転対称性を破ることであり、
他方はスイマーの構造対称性を破ることである。前者の機構はソフトマター
の複素粘性率の実部(粘性率)を、後者の機構はその虚部(弾性率)
をそれぞれ反映するため、両方の機構を独立に測定することにより、
媒質としてのソフトマターの粘弾性的性質が明らかになる。